
歯の寿命に大きな影響を与える
歯髄保存治療
歯の神経(歯髄)保存治療とは
むし歯や外傷により、歯髄(歯の神経)が露出すると神経が死んでしまうリスクが高まります。神経が死んでしまうと歯の寿命は短くなります。 以前は歯髄が露出すると神経が死んでしまうとされており、神経を取る処置(抜髄)を行うのが慣例でした。 しかし、近年、新しい診断方法やマイクロスコープ、MTAセメントといった新しい設備、材料の発達で神経を保存できる方法が確立されています。
歯髄を保存したい2つの理由
① 失活歯は歯根破折で抜歯に至りやすい
歯髄を保存したい最も大きな理由は、神経のなくなった歯(失活歯)は歯根破折を起こしやすく、生活歯(神経の生きている歯)に比べ、寿命が短い傾向にあるからです。特に奥歯では失活歯は生活歯より7.4倍、歯を失うリスクが高くなります。歯を失う原因の約80%はむし歯か歯周病です。 しかし、一定レベル以上のメインテナンス(定期検診)を行えば、むし歯と歯周病は予防、管理ができることをアクセルソン教授は論文で発表しました。 ただ、メインテナンスを行っても予防できないものがありました、それが歯根破折です。予防できない歯根破折を起こしやすい失活歯にできるだけしないことが大切と考えています。
歯の神経(歯髄)を残したい理由
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メインテナンス中の抜歯理由
(30年の報告) -
失活歯の喪失リスク
コホート研究 経過観察期間8年(平均6.7年)-
【前歯】
1.8倍
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【臼歯】
7.4倍
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② 根管治療は難しいため、
予後不良になりやすい
歯髄を失うと、根管(歯髄が入っていた根っこ管)が感染するリスクが大きく上がります。感染根管治療は歯科治療の中で最も難しい、成功率の低い治療です。根管は複雑に入り組んでおり、この中に細菌の侵入を許すと全てを除去するのは不可能になります。また、アメリカの根管治療専門医でも難症例では成功率が60%を切るという論文もあります。だから、最良は感染根管にしないことです。歯髄が生きている限り、基本的には感染根管の状態にならないので、まずは全力で歯髄の保存を試みることが重要なのです。
歯髄保存治療のポイント
Pattern 1歯髄に感染がないか、生きているかの診断

むし歯治療はむし歯菌に感染した歯質の除去が必要です。むし歯が深いとその過程で歯髄が露出します。ここで重要なのが歯髄の診断です。 歯髄が感染していないか、生きているかを高倍率で視診したり、エアーを軽く当てて耐久性を評価したりします。露出した歯髄の診断が歯髄保存治療を成功に導く重要なポイントになります。
Pattern 2歯髄保存治療の適切な処置を行う

歯髄を保存できる見込みがある診断がついたなら、速やかに歯髄保存の処置を行います。露髄した歯髄の上に覆罩材として使うのがMTAセメントと言われる材料です。直接覆髄の場合は硬化時間の短いBio MTAを主に使っています。その上には接着操作をきちんと行ったダイレクトボンディングを行います。漏洩を起こさないことが長期的な安定を得るために重要なポイントです。

Before

Treatment

Treatment

After
歯の神経(歯髄)保存治療の症例
- 主訴
- 右下奥歯がしみる
- 診断
- 右下第1大臼歯象牙質う蝕 う蝕が歯髄に及んでいる可能性が大きい
- 治療方法
- 歯髄保存治療(MTAセメントを用いた)、ダイレクトボンディング
- 治療期間
- 1回 80分
- 費用
- 89,000円(税別)
- 備考
- Bio MTAセメントを用いています。